いつの間にか「エンジニア採用の落とし穴」というタイトルがついていたこのシリーズ。今回はその第2回です。
前回の記事「なぜ『応募資格:JAVA業務経験2年以上』のような求人がエンジニアに見向きもされないのか」では煽り気味のタイトルをつけてしまったせいか、技術用語の大文字小文字についてふれたとこだけがやたらと反応があって、本題だった「なぜそういう求人ができてしまうかの背景」について指摘したところはあまり伝わらなかったようで少し反省。
(反省した結果のタイトルがこれかよというツッコミの声は華麗にスルー)
今回は、前回伝えきれなかったその本題についてもう少し立ち入って考えたいと思います。
まず結論から言ってしまうとエンジニア向け求人に大事なのは、ターゲットとしているエンジニアの目線に立って、彼らが欲している情報を的確に伝えること。
…なのですが、なぜか世の中にはそうでない求人のほうが多数派を占めてしまっています。
その手のエンジニア求人は、おおまかに言うと3つに分けられます。
1つめは「大学の入試要項系」。
これは前回でも指摘したような、「プログラミング経験3年以上、Java業務経験2年以上、××の実務経験、○○の運用経験、さらに△△の経験を優遇」と応募資格を延々と書き連ねてあるタイプです。
さながら大学入試か公務員試験の試験要項のごとく。
法律で禁止されてなければ、まちがいなく「年齢:22歳から34歳まで」とか書いてあるに違いありません。
日本人には学生時代からのなじみのある方式で、採用する側も何も考えなくていいので、無意識の内にやってしまいがち。
そのためエンジニア向けに限らず、世の中のほとんどの求人がこのタイプとなっています。
2つめは「俺たちが世界を変えるんだウェーイ系」。
最近増えているのがこのタイプ。
会社の理念と仕事のやりがいを前面に押し出し(というかそれ以外書いてない)、全員笑顔の集合写真が存在感を主張している、リア充感満載の求人。
完全にターゲット戦略をまちがえています。
そのキラキラ感がまぶしすぎて、コミュ障気味(でも仕事能力は高い)のエンジニア※1は引いてしまいがち。
これの原型は「若くて活気があってアットホームな職場です系」だと思うのですが、一歩まちがうと「やりがい搾取」のブラック臭が漂うのが難点と言えるでしょう。
3つめは「キミでもなれる!SE系」。
とあるブラック企業のシステム開発会社に就職してしまった青年を描いた異色のライトノベル『なれる!SE』の主人公、桜坂工兵くんが引っかかった手口。
入社2年目くらいの社員にスポットライトを当て、業務経験がなかった/少なかった自分が会社の優秀な先輩たちに導かれて、今は一人前に立派に仕事をこなしてやりがいのある日々を送ってます、という筋書きのやらせインタビューが掲載されている求人です。
最近は媒体にそれなりのお金を払うと、プロのカメラマンと編集者が派遣されてきて、まるで雑誌のインタビュー記事のような見栄えのいい求人ページを作ってくれます。
『なれる!SE』のスルガシステムは、凄腕アシスタントのカモメさんが自前でページを作っていたようですが。
これもやはりターゲット戦略を誤っています。
工兵くんのようなウブな新卒には効果的なのかもしれませんが、曲がりなりにも即戦力を求める専門職の中途採用で使う求人手法ではないでしょう。
「いいエンジニアがなかなか採用できない!」と嘆いている会社はたいてい、この3タイプの内のどれか(もしくは複数)の求人を出しています。
よく聞いてみると、そういう会社は応募がほとんどないか、応募はあるんだけど見当違いの人が多くて1人採用するのに何十人も何百人も面接しているという両極端に分かれます。
ちなみに応募がなかなかない会社は「大学の入試要項系」の求人、やたらと応募はあるけど効率が悪い会社は「俺たちが世界を変えるんだウェーイ系」か「キミでもなれる!SE系」の求人を出していることが多いように思います。
特に、お金のある会社は「キミでもなれる!SE系」の求人を出していることが多いのですが、会社の知名度と相まって合格率が1%以下とかそれどこのテレビ局の新卒採用?みたいなことになっている会社もあると聞きます。
これら3タイプの求人に共通するのは、視点が募集企業側のひとりよがりで、ターゲットの即戦力となり得るエンジニアが本当に欲している情報が掲載されていないということです。
それらの情報が掲載されていないため、ほしいと思えるような人には応募してもらえず、見当違いの人ばかりが応募してきてしまう。
特に「キミでもなれる!SE系」の求人は、敷居だけは思いっきり下げてあるのでその傾向が顕著です。
やらせのインタビュー記事で釣れる応募者は、当然そのレベルの人材でしかありません。
大事なことなので同じことを2回書きますが、必要なのは「ターゲットとしているエンジニアの目線に立って、彼らが欲している情報を的確に伝えること」。
それがどんなものかについての具体的な話は、シリーズ最後の3回目に書いていこうと思います。
ではまた次回。
※1
「エンジニアをコミュ障呼ばわりとは何ごとか」という反応が多いので追記。
試しに「コミュ障気味の」を「年配の」に入れ替えるとこの文は、「年配のエンジニアは引いてしまいがち」となりますが、これを読んで「エンジニアが全員年寄りだと言うのか!」という人はいないはず。
よって元の文章も、全てのエンジニアがコミュ障気味だと言っているわけではありません。
あえて補足するなら元の文のニュアンスは、「(筆者を含めたその自覚のある)コミュ障気味のエンジニアは~」のようになるでしょうか。
またブコメで指摘もあったように、ここで「コミュ障気味」という言葉を使ったのは、エンジニアにさえ技術ではなくコミュニケーション能力を一番に求める企業が多いような日本の風潮を皮肉ったニュアンスも少なからずあります。