[寄稿] エンジニアに見向きもされない「応募資格:JAVA業務経験2年以上」という求人を、なぜ企業は出してしまうのか

今回からまた短期連載シリーズをお送り致します。
書き手はいつものおおかゆかではなく、サカタカツミさんによる寄稿。

サカタさんは主にHR(人材採用)業界でフリーのディレクターをされている方。『こんなことは誰でも知っている! 会社のオキテ』『就職のオキテ』という著書があり、Business Media 誠で「サカタカツミ『就活・転職のフシギ発見!』」という連載も持たれています。
また最近では、リクルートさんの CodeIQ のプロデュースもされています。

HR業界、特にエンジニア採用では顔の広い方で、業界内にはサカタさんの信奉者までいると聞きます。
これまで当ブログではエンジニアの視点から採用について物申してきたわけですが、サカタさんは人事の視点からこの問題について書いてくださるとのこと。

いつもは「なぜ人事はこうじゃないのか?」「こうしようよ」と言うばかりのこのブログですが、今回はその「なぜ」という部分に答えてくれる記事になっています。
今回を含めて3回のシリーズ連載、お楽しみに。



エンジニア採用は特殊である、という話

エンジニア採用の現場にいると、エンジニア採用は特殊であるという話(愚痴に近いかもしれません)を企業の採用担当者からよく聞かされます。

ただし、それは『エンジニアのことが理解できていない』採用担当者の口からであって、例えば、ウェブサービスを立ち上げたばかりの企業の採用担当者から聞かされることはありません。後者はエンジニア出身、もしくは現役エンジニアであるケースが多く、エンジニアのことをよく理解しているからです。

このブログでゆかさん(普段からこう呼んでいますので、そのまま)は『なぜ「応募資格:JAVA業務経験2年以上」のような求人がエンジニアに見向きもされないのか』という衝撃的なエントリーを書きましたが、そこにある『なぜ』を読んでもなお、問題が理解できない採用担当者は多いのです。

ゆかさんが書いた一連のエントリーは、エンジニア視点からのエンジニア採用における問題点の指摘でした。私は逆の視点、つまり採用担当者が『なぜ』そういう求人を出してしまうのかを、3回程度の連載形式で、この場を借りて少し整理してみたいと思います。


エンジニアが何をしているのか、採用担当者は知らない

まず、前提として、企業の採用担当者の中でエンジニアが関わる業務について精通している人は多くない、ということです。そう、自社のエンジニアがどんな仕事をしているのか、それさえ『あやふやな』理解しかしていない採用担当者がゴロゴロいるのです。もちろん、自社がどんなサービスを提供しているのか、ということは理解しています(たぶん)

Forkwell Jobs に掲載されている企業情報を例にとってみると、『会社はどんな事業を行なっていますか?』という質問には、採用担当者も答えることができます。しかし『現場で使われる技術について教えてください』という質問に対しては、まともな(=少なくともエンジニアの琴線に触れるような)回答ができるという採用担当者はそれほど多くないのです。

もちろん、営業担当者や総務を募集するとしたなら、エンジニアではない採用担当者たちも、その仕事は容易に想像がつき、少なくとも自分には皆目理解できないということにはなりません。開発言語や環境といった、エンジニア採用で頻出する言葉も、その言葉自体のおおよその意味はわかっています。けれども、その先でなにが行われているのか、つまり『エンジニアがいったい何をしているのか』をほとんど理解していないので、それらの言葉が『採用において何を意味するのか』その重要性が、今ひとつよくわからない。

そんな状態で、エンジニアの琴線に触れるフレーズなど、当然書けるはずもなく、逆に見向きもされそうにない求人広告を出してしまうというわけです。

だからこそ、ゆかさんは先のエントリーで「だからこそ、エンジニアが採用に関与しなければならないのだ」と強く訴えています。私も同感で、プロデュースしている CodeIQ では、積極的にエンジニアの関与を増やす仕組みを作って、新しいカタチの採用プロセスを模索、実績を出してきました。

が、エンジニアが人を採用することに関与するのは容易ではありません。正しく言うと『採用担当者たちが』エンジニアを採用フローに関与させることは簡単ではない、と思い込んでいるのです。


エンジニアと採用担当者たちの壁の正体

Forkwell JobsCodeIQ などの求人サービスを、企業にお勧めする場合、その窓口のほとんどは人事セクションになります。彼らに「これからのエンジニア採用は、エンジニア自身が深く関わらないと上手くいきません」と私たちが言ったところで「ウチのエンジニアには、そういうことはできないですよ」とあしらわれることは少なくありません。そういう企業は、同じ社内にもかかわらず、採用担当者とエンジニアの間に、どこか余所余所しい空気が漂っています。普段からあまり接点もなく、それこそコミュニケーションはそれほど多くなさそうです。

実際、エンジニア自身と話をしてみると「そういうことでしたら、いろいろと協力したいです」とか「以前から、そういう採用に興味を持っていました」と向こうから切り出されることもあるのですが、その時、隣に座っている採用担当者たちは一応に『驚き』ます。まさか、自社のエンジニアがそんなことを考えていたなんて、という反応なのでしょう。

そういう反応を目の当たりにして、エンジニアが採用に関与することは大切だと気がついた企業(=その採用担当者)は、採用フローの中にエンジニアを積極的にかかわらせようと取り組みはじめます。しかし、そこに立ちはだかる大きな壁を超えることはなかなかできないのが現実です。

その壁とは、先ほどから繰り返し書いている採用担当者たちが『エンジニアが何をしているのか、それがわからない』ということ。さらに、コミュニケーションすら満足に取れないので、社内での調整や役割分担も上手くいくはずもなく、結果的に、関わる人がすべて疲れ果ててしまって、採用も上手くいかない、という惨事が待ち受けているのです。


■壁を超える必要はない、と考える企業も意外に多い

エンジニアと採用担当者の間に横たわっている壁は、それほど容易くクリアできそうにありません。双方が(大げさな言い方ですが)歩み寄って、特にエンジニアの皆さんが『自分たちが何を大切にしているのか』そして『日常の業務について』エンジニア領域にいない採用担当者たちに『わかる』ように説明するところから始める必要があるのです。とても面倒な作業ですが。

ゆかさんは先のエントリーで『使えないエンジニアが入社してきて困るのはエンジニア自身』と書いています。日常の業務以外にこれほど骨の折れることをしなければならない理由を、その一点に見いだすことは、大きな価値がある。のですが、それはあくまでエンジニア自身の都合です。エンジニアの仕事とその価値を理解していない採用担当者たちにとっては「どうしてそこまでしなくてはならないのか」という気分になっても不思議ではないと。

実は「応募資格:JAVA業務経験2年以上」と書いてある求人広告がダメな理由はなんだと思う? と、周囲の採用担当者に聞いてみました。いろいろな反応が返ってきましたが、「なるほど、でもなー」という言葉が続けられることが少なくありませんでした。確かに優秀なエンジニアが欲しいと、口ではいうのです。しかし、そもそも仕事そのものがよくわからないので、何が優秀であるのかも今ひとつ理解できない。結果として『現状が良くないことは認識しているけれども』何をしていいのかもよくわからなくなって、なおかつ『手間暇かけて時間取られるよりも早く人の補充を』という話になってしまう。

ゆかさんが『エンジニア求人と掛けて婚活女性のプロフィールと解く、その心は相手の視点に立つことが大事』というエントリーの文末に、こういう文章を書いています。

いや別にどんなエンジニアでもいいのでしたら、わざわざこんなことをする必要はありません。

確かにその通り。ですが、そもそも『優れたエンジニアと、そうでないエンジニアの区別』がイマイチついていない人たちにとっては、コミュニケーションの上手く取れない社内のエンジニアと口をきいたうえで、彼らの手を煩わせるような調整をすることは、苦痛以外のなにものでもありません。

企業規模が大きくなり、エンジニアが採用から遠ざかってしまった企業であればあるほど、この問題は容易に解決できません。結果として「応募資格:JAVA業務経験2年以上」という求人広告を出しつつ、給料や人材紹介会社への斡旋フィーを高く設定する、つまり自分たちのできる範囲のことで『なんとかしよう』と、採用担当者たちは『つい』考えてしまうのです。


(文責: サカタカツミ - クリエイティブディレクター)

ライタープロフィール
おおかゆか(oukayuka)
Forkwell の発案者でプロダクトマネージャー。
エンジニアと企業が幸せな関係を結べるようなしくみ作りとそれを世の中に広めるのがお仕事。
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