このままだと自殺を考えてしまうかもしれない「SE」に伝えたいこと

繰り返される「SE」の自殺


先週末、こんなニュースが一部で騒がれていました。

SE、過労でうつ病→自殺…労災認定 - 大田労基署 :日本経済新聞

コンピューターのシステム開発などを手がけるピーエスシー(東京都港区)のシステムエンジニアの男性社員(当時29)が2011年に自殺したのは「長時間労働によるうつ病が原因」として、大田労働基準監督署が労災認定したことが31日分かった。

【中略】

男性は06年に入社し、システムエンジニアとして大田区内で勤務。
プロジェクトリーダーに就いた10年11月ごろから労働時間が急増し、11年6月に自殺した。同12月に遺族が労災申請した。

弁護士によると、労基署は、男性が11年5月下旬にうつ病を発症したと判断。
発症4カ月前の1カ月の残業時間が、前月の倍以上の136時間に急増し、2週間以上連続して勤務していたことなどから労災と認定した。

なんとも痛ましい話ですが、不謹慎ながら「やれやれ、またか」という気もします。
遺族側の弁護士からは、「ここ数年、若いシステムエンジニアの過労自殺が後を絶たない。過酷な労務環境の改善が求められる」というコメントがあったとのこと。

弁護士さんは「ここ数年」と言ってますが、同様のことはすでにバブルのころには問題化していたはずなので、20年以上解決されないままというかむしろ悪化しているということになります。

ただ「それにしても死ぬことはないだろう」と、普通の人は考えるかもしれません。
他の職種と比較して、「SE」の自殺率が特別高いという調査・統計は探したところ見つかりませんでしたが、精神科医の話ではうつ病の発生率は一般の会社員と比較して2〜3倍は高いそうなので、自殺者もやはり多いだろうことが推察されます。

私は新卒でほぼ同じくらいの規模のSIerに入社して3年ほど働いた経験があるので、この事件があったときどういう状況だったのか、少しは想像がつきます。
というか、一歩まちがえば自分だってそうなっていた可能性もあるはずで、全くの他人事とは思えません。

「SE」が自殺する理由

なぜ「SE」の自殺が多いのか?
私はこれには大きく2つの理由があると考えています。

【理由① 死ぬほど残業が多い(場合が少なくない)
理由② 過酷な状況に陥ったときに、本人が死を選びやすい環境にある

理由①については、プロジェクトマネージャーのプロジェクト管理能力に依るところも大きいわけで、それについては一メンバーの立場からできることが限られるとは思いますが、まずは自衛手段として「無茶なスケジュールを承諾しない」「無理なものは無理と言う」というのが基本でしょう。

ただそこで問題なのは、「SE」がそれができない弱い立場に置かれているか、「SE」本人自身がそう考えている場合が多いということです。これについては少し置きます。

理由②の「過酷な状況に陥ったときに、本人が死を選びやすい環境にある」ですが、一般的に人がもう自殺しかないと考えてしまうのはどんなときでしょうか。

たとえば同じく自殺が取り沙汰される社会問題として、学校での「いじめ」があります。
中高生である彼らの世界は、学校と家庭でほぼ完結しており、非常に狭い世界に住んでいることが多いです。

その彼らの世界の大部分を占める学校で追い詰められると、それが人生の全てのように思い込み、そこから解放されるためには死ぬしかないという思考回路になってしまう。

SIerで働く「SE」にも、同様に狭い世界に住んでいる人たちが少なからずいます。
「SE」は、もともと人と接することが他と比べて少ない職種です。それも顔を合わせるのはごく限られたメンバーのみ。
そこに残業につぐ残業という状態が続くと、毎日が自宅と会社の往復に終始することになり、たまの休日は疲れて寝ているだけ。

そんな狭い世界の人が、その世界の大半を占めている仕事で追い詰められると、「もう死ぬしかない」と考えてしまいやすいのです。

そんな「SE」たちに伝えたいこと

「世界が狭い」。私はこれが一番の問題だと思います。

冒頭の事件で自殺してしまった人に少しでも共感する「SE」の方々に言いたいのは、以下のことです。

世界を広げましょう。もっと外に目を向けてください。

たとえば今している仕事がもし好きになれなくても、最終的に自分でエンジニアの仕事を選んだくらいなら、何かしらひとつかふたつくらい気になる技術があるはずです。ならばその技術の勉強会に出かけてみましょう。
IT勉強会カレンダー検索

そこで知り合いを増やしましょう。
何となく常連ばかりで入っていけない雰囲気があるように見えるかもしれませんが、彼らは積極的に参加してくれる新参者を常に歓迎してくれる人たちです。気兼ねする必要はありません。

仲良くなるコツは、勉強会後の懇親会にはなるべく参加すること。また、人の発表を聞くばかりではなく、初心者であっても何かしら自分で学んだことを発信すること。
そうすることで、既存のメンバーに顔と名前をおぼえてもらえやすくなります。

そうやって同業者の友人・知人を増やしていくと、世界が広がります。
自分の会社の同僚や客先の担当者しか知らなかったそれまでと比べると、色々なものが見えてくるはずです。

自分が今抱えている問題を、他の会社ではどうやって解決しているのか。
もし彼らが自分の同僚たちと比べて、仕事が楽しそうに見えたなら、それはなぜなのか?

そもそも自分の会社の労働環境やエンジニアの待遇は、他と比べてどうなのか。
当たり前だと思って今まで従っていたことが、実は他社では考えられないことなのかもしれません。

また現金な話ですが、最近は勉強会つながりで転職するエンジニアが増えています。
勉強会に頻繁に参加するようなエンジニアであれば、こちらからスカウトしたいと考えている会社は山のようにあります。
転職サイト経由で一般応募するより、ずっと確実な方法です。

今すぐ転職するわけではなくても、転職できる選択肢を持っていれば、心に余裕が生まれます。

理由①に戻って、なぜ「SE」が無茶なスケジュールを断れない弱い立場に置かれていたり、「SE」本人自身がそう考えているかというと、無理を押し付けてもその「SE」は他の条件のいい会社に移ったりして逃げるようなことはできないと、自他共に認識しているからなのです。

その認識さえ変われば、状況も必ず変わります。
もし無茶な要求を断ったからといって社内で不利な立場に置かれるようなら、そのときはそんな会社は見限って本当に転職してしまえばいいのです。

「SE」なんて名乗らないで

自分が今「SE」をやっているのは、就職難でたまたま他に選択肢がなかったから。
コードを書いたりするのは仕事だけで十分、プライベートの時間まで書くのはちょっと…という方もいるかもしれません。

その気持ちはわかります。
私も就職活動時、なりたかった職業の第一志望はベンチャーキャピタリストでしたが、当時ベンチャーキャピタルは会社自体が少なく、最終面接で落とされてやむなく第二志望の「SE」になったクチですから。

でも他に無数の選択肢があったなかで、最終的にそれを選んだのは自分です。
私は最初の会社の業務にはあまり興味が持てませんでしたが、Webの仕事がやりたくてそこを辞め、Web系の開発ができる会社に派遣社員で入り、そこからキャリアを積んでいきました。
そして、むしろ今はエンジニアになってよかったと思っています。

今ならスマートフォンアプリの開発とか、何かしら興味が持てる技術はあるはずです。
もしそれすらないようなら、それはあなた本人の不幸でもあるし、あなたにシステムを作られる人の不幸でもあるので、エンジニアという職を考え直したほうがいいかもしれません。

エンジニアに限らず、プライベートで一切勉強しなくていい職なんて今の時代、ほとんどありません。ITに全く興味が持てないのなら、早い内に引き返すべきでしょう。

そもそも「システムエンジニア」というのはSIerの業界でしか使われない和製英語であり、またその略称の「SE」「PG」などという呼称は、プログラムを書くことに少しでも愛着がある人が自称するようなものではありません。
ここまでかぎかっこ付きで「SE」と書いてきたのは、そういう理由からです。

SI業界以外では、設計もしてコードも書く人のことを普通に「プログラマー」と呼びますし、もっと総合的に言いたい場合は「ITエンジニア」という言葉を使います。

「SE」という狭い殻に自分を閉じ込めず、それを打ち破って自分の世界を広げてみてください。

今日明日すぐに事態の改善が望める即効の解決策ではありませんが、中長期的にはそれがかならずあなたのためになるはずと約束します。

ライタープロフィール
おおかゆか(oukayuka)
Forkwell の発案者でプロダクトマネージャー。
エンジニアと企業が幸せな関係を結べるようなしくみ作りとそれを世の中に広めるのがお仕事。
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