2011年8月に、@IT自分戦略研究所で突然はじまった、「きのこる先生のエンジニア転職指南」。
中の人が誰なのかという謎もさることながら、その内容の的確さ、示唆するところの多さによってエンジニアたちの話題を集めました。
連載は今年の3月に最終回を迎えたわけですが、連載を終えた「きのこる先生」に都内某所(居酒屋)にてインタビューする機会がありました。
今回の記事では、その内容をお届けしたいと思います。
――8回に渡る連載、おつかれさまでした。今は何をされているんですか?
今は、いただいた原稿料でiPadを買ったり、次回作の構想を練ったりしています。
――じゃあまた、きのこる先生は帰って来られると?
もちろん、そのつもりです。
――毎回、力の入った内容でしたが、特に最終回の「転職したいITエンジニアが知るべき97のこと」は、97個もネタを考えるのは大変だったんじゃないですか?
大変でした! なぜ97なのかは、皆さんご存知の『プログラマが知るべき97のこと』を始めとするオライリーの「97」シリーズからいただいたんですが、いちおうネタは全部自分で用意しました。
――タイトルにやたらとアニメとかのサブカルネタが多かったような気がしますが?(「36. わぁい勉強会 あかり勉強会大好き」、「39. 『SIerに転職しないのかい?』『私の戦場はここじゃない』」)
実は、あれは編集さんのアシストでして。個人的に押さえているのは「まどマギ」くらいです。
――えっ。じゃあ、きのこる先生は別に「ゆるゆり」ファンというわけではないと? このあと「ゆるゆりで、きのこる先生の嫁は誰ですか?」という質問を用意していたのが無駄になってしまいました…。ちなみに私は櫻子推しです。
――…それは置いておいて、話を戻しますが、あの連載はどういう経緯で始まったんですか?
あれはですね、第1回の連載でも書いたんですが、私がそれまでプログラマー職一本で来ていたところを、会社の辞令によって人事系の仕事をすることになったのがきっかけです。
そして人事の仕事を続けていく中で、あまりにもあまりに思うところが多々あり、それらを誰かに伝えることはできないものかと思っていました。
たまたま以前からお付き合いのあった編集さんとお会いする機会があったときに、「こんなことを書いてみたいんです。需要ありますか?」とお話ししたところ、すぐ編集会議にかけていただいて、そのまま連載が決定したと、こういう経緯になります。
――なるほど。プログラマーとしての経験と、人事担当としての経験とその両方を持っている人ってなかなかいませんよね。あの連載の説得力は、きのこる先生ご自身の実体験あればこそなんでしょうね。
――その「思うところ多々」が一番色濃く出ているのは連載の第1回と第2回だと思うのですが、その内容は「エンジニアは自己アピールが下手」ということでした。他の職種の人たちと比べても、やはりエンジニアは特に自己アピールが苦手なんでしょうか?
そう思いますね。経験が少ないせいで余裕がないというのもあるのでしょうが、それ以前に自分のアピールの仕方を知らないというのが大きいと思います。
そのせいか転職エージェントを先生、自分を生徒みたいに考えて、先生からもらったお手本のテンプレに自分のデータを当てはめて終了、みたいなパターンが多かったです。
その書類を誰が読むかということに思いを巡らせるのは、考えてみれば当然なんですが、その当然のところに気づくきっかけをあげたかったというのが、第2回の内容の目的でした。
――第6回は、SIエンジニアがWeb企業に転職する際の心構えを説かれていたわけですが、最近はSIerからWeb系に転職したい人が増えているのでしょうか?
そうですね。応募書面を見ているだけでも、はっきりとその流れがわかります。
メーカー系、独立大手、それらの関連会社だったりと、私が見ていた期間だけでも右肩上がりに増えていました。
ただ記事でも触れましたが、Web企業に過大な幻想を抱いて、まるでそこにはギークの楽園があるかのごとく考えている人だとか、毎日深夜までこき使われているのが嫌で、Web系に行きさえすればそこから逃れられるみたいに考えている人というのが少なからずいるのが問題ですね。
Web企業の華々しい自社サービスの裏には、往々にしてそびえ立つレガシーコードの山が存在していたりして、それを自分が何とかしてやろうと言えるような人を企業も求めているわけです。
単にSIerが嫌だからWeb系に逃げたいという人は、状況に流されているだけで、自力で問題を見つけ解決にもっていく気力や能力に乏しいことがほとんど。それじゃダメなんです。
じゃどうすればいいかというのが、あの連載の後半で言いたかったことで、来るならこんな覚悟が必要ですよという示唆が述べられています。
――面接でのエピソードをいくつか教えていただけましたら。
「ボクはPGには未来がないことを知っているので、早くSEになりたいです(キリッ」と、プログラマーの私に向けて言い放った若者がいました(笑)
その場には私以外にももう1人、現役のプログラマーがいたんですが。
――その面接の後の展開が気になりますけど。
追い返したい気持ちを抑えつつ彼の言い分を聞いてみたところ、彼の親戚に40代くらいのうだつの上がらない「PG」の方がいたらしく、ことあるごとに彼に「PGなんてやるもんじゃないよ」と愚痴り続けていたということがわかりました。
これはオトナが仕事に誇りを持ってその背中を見せるということをしなかった結果であり、彼はその被害者と言えなくもないと思えて、以後は彼への怒りが収まりました。
――なるほど。他にもありますか?
「やろうと思ってます」という、「やるやる詐欺」の人。
「Rubyに興味があるんです!」「何かRubyで書いてみましたか?」「採用されたらやろうと思ってます!」みたいな人たちは本当に多いです。
そこで「どうしてやろうと思ってるのに今までやらなかったんですか?」と聞きたかったんですが、それをやると圧迫面接みたいになってしまうので、慣れてからは聞き流すことにしていました(笑)
――転職を考えているエンジニアに対して、エージェントとの付き合い方のアドバイスをお願いします。
転職エージェントというのは、単純に人をGetしてPutしたらその年収の何割かがもらえるビジネスモデルで、アサインした人が幸せになるかどうかは彼らのビジネスのドメインの外にあります。
半年から1年間はフォローしますというエージェントさんもいますが、それも転職していった人たちのためではなく、次の転職候補者に対しての情報収集のためということが多い。
彼らがやっていることは、扱っているものが人というだけで利ざや稼ぎの普通の商売であって、彼らは先生でもお母さんでもありません。君の将来に対して、本気で親身になって案じているわけではないのです。
もちろん、知らなかった優良企業を教えてくれるとか、やりづらい面接の時間や給与の交渉をしてくれるとかといったメリットもありますので、ビジネスの相手ということを常に念頭に置いた上で、対等の立場として利用するというスタンスで臨むべきでしょうね。
――では、その転職エージェントの人たちに対して言っておきたいことはありますか?
言い方は悪いですけど転職エージェントの業務は「情弱ビジネス」というか、入手しにくい情報を占有して、それを必要とするところへうまく流すことによって成り立ってきた商売です。
求職者に対しては、業界知識や面接の心構え、隠れた優良企業の情報等を。求人企業に対しては、有望な転職候補者の情報を。
しかしそれ例外のルートの情報の流れが、今すごく活発になってきています。まさに Forkwell のようなサービスもそう。「この人はこれができる」というのが今までは Word で書かれた自己申告の職務経歴書で不十分にしかわからなかった情報が、ネット上で公開されている。
そんな中で、転職エージェントの人たちはどうすればこの先生きのこることができるか考えていかないといけないでしょうね。
年収500万の人をつっこんだら、30%の150万ゲットという世界は、もうすぐ潰えると思ったほうがいいです。
――Forkwell について言及していただきましたが、実は最終回の「97のこと」の中の71番で Forkwell のことを紹介してくださっているんですよね。ありがとうございます。
――ところで連載が始まった2011年7月と今を比べて、転職トレンドで目につくことはありますか?
ずっと言ってきた「ソーシャル転職」の事例が身近に増えてきたことでしょうか。
――個人ブログの「退職エントリー」とか、本当に増えましたよね。
そう。そして有望なエンジニアの「退職エントリー」に、めぼしい企業の人事が群がる構図が目立ちますね。
去年のことなんですが、知人の某エンジニアが「退職しました。次はまだ決まっていません」というブログ記事を上げていたので、「ウチどうですか?」というメッセージを送ったところ、「御社からのアプローチは4人目です」と言われたことがありました(笑)
彼の話では、それだけでなくありとあらゆる手段での企業からの連絡が、ひっきりなしに来ていたそうです。メールを始めとして電話、Twitter、Facebook、はてなのIDコールに至るまで。
延べ15件から20件くらいのアプローチがあり、あえて自分から転職活動をする必要がなかったとのこと。
でもそれって彼が普段からアウトプットをし続けていて、エンジニアのコミュニティで自分の存在をアピールしていたからこその結果であって、一足飛びにそこだけマネをして「オレも退職エントリー書けばモテモテだぜ」みたいに勘違いしてしまうのだけは気をつけてほしいですね。
ただ例えばオープンソースでライブラリを作って、それを GitHub で公開して、Gem でインストールできるようにしています等というのは、プラスにこそなれマイナスになる要因は全くないので、どんどんやればいいと思います。
万が一、それを名前を出してやることで会社から咎められるようなことがあれば、それこそいいネタになるのでそこで退職エントリーを書くべきでしょうね。そんな会社にいる価値は、今の時代もうないので。
――最後に、きのこる先生から Forkwell に対して何か言いたいことがありましたら。
あの連載っていうのは全体的に、転職エージェントの時代がそろそろ終わりつつあるというところを起点にしています。ただ、エージェントに乗っかって行う転職というのは求職者にとってはすごく楽で、これまではエージェントが売りやすい人材を演じればどこかに売ってもらえるという時代だったわけです。
でもそれが、特にソフトウェアエンジニアに関しては、個人のスキルが可視化・公開される流れになってきている。Forkwell はまさにその流れを加速させるサービスだと思います。
連載の第1回、第2回は「エンジニアの職務経歴書が残念過ぎる」ということに言及していたわけですが、今のフォーマットではたとえ綺麗に書いてもらったとしてもわかることには限界があります。
Forkwell もそのひとつだと思いますが、自分のスキルをアピールする看板としてエンジニアにはこういったサービスをどんどん利用してほしいし、その看板がちゃんと読める人事担当も増えてほしいですね。
――いやあ、ものすごく綺麗にまとめていただいてありがとうございます(笑)
ステマじゃないですよ(笑)
エンジニアの看板がもっと増えてほしいし、その中の有力な選択肢として、Forkwell の今と今後にはすごく期待しています。
――ありがとうございます。きのこる先生の期待に応えるべく、チーム一同全力を尽くします。
きのこる先生、本日はどうもありがとうございました。次回作も楽しみにしています!