「エンジニア採用の落とし穴」シリーズの第3回目。
今回がシリーズ最終回です。ちゃんとオチがつくといいですね。書きながらドキドキしてます。
さて前回の記事では、エンジニア向け求人で陥りがちなアンチパターンとして「大学の入試要項系」「俺たちが世界を変えるんだウェーイ系」「キミでもなれる!SE系」の3つのタイプを挙げました。
これらに共通するダメな点は、それを読んで応募するかもしれない相手の立場に立った視点がなく、ひとりよがりだったり相手の人格を尊重していなかったりするところ。
たとえば転職はよく恋愛や結婚にたとえられますが、「大学の入試要項系」などはさながら「年収800万円以上、身長175cm以上、首都圏在住転勤なし、親と同居不可、専業主婦希望、etc,etc…」と条件を一方的に並べ立てる婚活女性のようなもの。
さほど相手に困っていない男性がそういう女性にコンタクトを取ろうと思うでしょうか。結果、応募があっても条件だけは何とか満たしつつ後は地雷だらけの人ばかりが来ることになってしまいます。
前回の主張を繰り返し述べますが、大事なのは「ターゲットとしているエンジニアの目線に立って、彼らが欲している情報を的確に伝えること」。
ちなみにここでいうターゲットですが、技術に対して愛情がありそれを何らかの形でアウトプットしている人で、かつそれなりに業務経験があり、受け身でなく課題を自分で見つけて自発的に仕事をするエンジニアとします。
弊社でもそういう人を求めていますし、Forkwell Jobsに求人を掲載していただいているクライアント企業様のお話を聞く限りでも、概ねそういう求人像ですので。
そういったエンジニアが職を見つけようとする際、避けたいと考える仕事とはどんなものでしょうか。
それは、誰の役に立つかわからないような退屈なプロダクトを、好きでもないカビが生えたような技術で、自分のコントロール外の理不尽なマネジメントの元に作らされる仕事。それで給料が安かったら最悪です。
ですから、求人を作る際にはこの逆をやればいいわけです。
ウチはこんな人たちの役に立つ社会的意義のあるプロダクトを、ギーク好みのクールな技術で、現場のエンジニアの裁量が大きいやり方で作ってますよとアピールできれば、第一関門を突破したことになります。
どんなプロダクトを作っているかの説明は、当たり前のようですが非常に重要です。
多くのエンジニアは案外、自分が作っているプロダクトがちゃんと人のために役立っているのか、社会的価値があるのかということを気にしています。
一般に人気のWebサービスをやっている会社にエンジニアの応募が多いのはそれがわかりやすいためで、そこがわかりにくい会社が説明をおろそかにしていては、その段階で切られてしまいます。
大言壮語する必要はありませんが、自分たちのプロダクトに懸けている熱い想いがあるなら、それを書かない手はありません。
そのプロダクト、サービスはどんな人たちをどのように助けるもので、いかに社会的に価値あるものなのかを、詳しく説明しましょう。
そして次に必要なのは、どんな技術を使って作っているかの情報です。
「大学の入試要項系」はその情報をほとんど公開しないまま、エンジニアに求めるスキルだけを書き連ねていましたが、むしろ必要なのはその逆です。
どんな技術を使って開発しているのかを詳細に渡って公開することで、その職場のレベル感が伝わり、応募資格スキルを書くまでもなくちゃんとそれに見合った人の応募が見込めるようになるのです。
ですから、そこはできるだけ詳しく書く必要があります。
使用技術が公開されているものでも言語だけといった求人が多いのですが、アプリケーションフレームワークの選定がいちばん技術センスを問われるところなので、最低でも絶対にアプリケーションフレームワークは公開しましょう。
さらにDBやKVS、各種ライブラリ、テストフレームワーク、バージョン管理ツール、バグトラッキングツール、プロジェクト管理ツールといった情報も、エンジニアがその職場を判断する材料になるので極力書くようにするべきです。
最後のどんなやり方で開発しているのかという情報。これは地味なようですが、実際に働き出すとダイレクトに関わってくるところなので外せません。
どんなチーム編成で、どのようなフローでプロジェクトが進められているのか、それを知ることでエンジニアは地雷の求人を避けることができます。
何も考えていない会社にありがちなのが、知らない内に上から降ってきた仕様に、これまたPM様やディレクター様によって一元的なスケジュールが根拠なく設定され、それに間に合わせるため末端のエンジニアが日々全力で走り続けるという開発スタイルとチーム構造。
4〜5年くらい前までならばそれも許されたのでしょうが、ちゃんとトレンドを追っている今どきのエンジニアからはそういうスタイルは忌み嫌われています。
ここ数年で日本にもアジャイル開発が普及したことで、日々変更される要求に対してタスクを細かく分割してエンジニア自身が見積もりを行い、リリースされる機能や納期も柔軟に変更していくスタイルが、先進的な企業から採用されるようになってきました。
これはプロジェクト管理の民主化とも言うべきムーブメントで、これを一度経験したエンジニアは、それまでの一方的に上から押しつけられる前近代的なやり方ではもう働けなくなってしまいます。
ですので、そういうやり方を採り入れているならば、詳細にそれをアピールすることで、優秀なエンジニアが入ってきてくれやすくなります。
(そうでない場合は…、まず自社の開発を統括している人に『アジャイルサムライ』を渡して読んでもらうことから始めましょう)
以上の3つが揃って初めて、ターゲットとなるエンジニアに検討してもらえる俎上に乗ることができるわけですが、実はこれらをショートカットできる裏技もあります。
できる企業は限られているのですが、ターゲット層が評価していそうなエンジニアが会社に在籍しているのであれば、そのことをアピールするという方法です。
個人的に私が今の会社にジョインしたときもそうだったのですが、エンジニアは自分が信頼しているエンジニアが関わっている会社であれば、深く考えずにすでに地雷はクリアされているものと判断します。
「キミでもなれる!SE系」では親近感を演出するためか、入社2〜3年目の無名の社員をフィーチャーしていましたが、これは人選を誤っています。
エンジニアコミュニティで知名度の高い人をこそアピールするべきなのです。
その効用を理解しているから、SalesforceがRuby作者のまつもとゆきひろ氏を自社のチーフアーキテクトにしたり、DropboxがPython作者のグイド・ヴァンロッサム氏をGoogleから引き抜いたりしているわけです。
以上いかがでしたか?
これまでの反響から「これだけやってようやくスタートライン? エンジニアって何様なの?」みたいな声が今回も聞こえてきそうです。
いや別にどんなエンジニアでもいいのでしたら、わざわざこんなことをする必要はありません。
自分の仕事をことあるごとに「IT土方」と卑下したり、技術に対して何の愛情もなくて、たとえば業務外でコードを書いたことがなかったり、自腹で技術書を買ったら負けと思っているようなエンジニアでいいのなら、たとえば媒体にたくさんお金を払って「キミでもなれる!SE系」の求人を出せば、応募の数は集まるでしょう。
ただ不況のころからずっとIT業界では、各社求めるスキルを持ったエンジニアが全然足りないと言い続けていて、それがスタートアップブームやらアベノミクスやらでますます獲得合戦になっている現状で、これまでのやり方では必要なエンジニアの確保が難しくなってきています。
あなたの会社のエンジニア求人を見直すきっかけになればと思い、書かせていただきました。
冒頭の話に戻りますが、採用は婚活と同じようなものと考え、自分の条件だけを押しつけるのではなく、相手の視点に立ち相手が知りたがっていそうな情報をできるだけ詳しく伝えることが大事。
自分は地雷じゃないことをさりげなく伝え、自分との結婚生活をイメージするために必要な材料を提供する、そんな求人を作ることができればあなたの会社にふさわしい人材がきっと応募してきてくれるはずです。